2013年12月26日

キューティーとボクサー

 
 
ニューヨーク在住40年の芸術家、篠原有司男、及り子夫妻のドキュメンタリー映画を見ました。 
 
今年81歳の夫の有司男さんは、60年代から前衛芸術家として日本で活躍していました。69年に奨学金を得て渡米し、それ以降ニューヨークで暮らしています。
 
21歳年下の妻及り子さんは、19歳の時アートを学ぶためにニューヨークを訪れ、その直後に有司男さんに出会い、妊娠、出産、その数年後にようやく入籍し、経済的な苦難の中で子育てをしてきました。
 
現在40歳になる一人息子のアレックス空海さんもアートの道に進んでいます。
 
有司男さんの型破りで芸術家そのものの生き方は、第三者から見ると、痛快なのですが、家族にとっては、苦悩の連続だったようです。
 
「息子には辛い思いばかりさせてしまった。いつも家には飲んだくれた芸術仲間がたむろし、親はアル中、家計はいつも火の車。」とお母さんは深いため息をついています。
 
1988年、日本がバブルに沸いている時に製作されたドキュメンタリーには、当時14歳のアレックス君と34歳の及り子さんが、イケイケドンドンのお父さんの隣で精彩を欠いた表情で登場しています。「夫は、子供が生まれてミルクが買えなくて困っていても、子供は芸術的に育てねばならぬなどと、わけのわからないことを言っていた。」と恨んでいます。
 
及り子さんは自分自身のパッションをアートで表現したくて渡米したのに、貧困の中の子育て、夫のサポートで終わり思うように製作ができない深い悲しみ、怒り、焦りが画面から伝わってきます。「夫と絵の具の奪い合いをしていた」という及り子さんの言葉がリアルです。
 
それから25年後、ようやくアーティストとしての道を歩みはじめた及り子さんは、白髪頭をおさげに編んで、いきいきと、有司男さんとも対等にやりあえる、パートナーにまで成長しました。「長年の苦労の連続が、今の自分を作り上げてくれた」と言い切っています。
 
私たちは、子供には好きな道を見つけて歩んで欲しいと願っています。しかし、配偶者、子供が生まれることで、責任を負わなければならなくなった時に、家族に安定した生活をサポートできるかどうかも、道を選ぶ上で、大きな要素になると、この映画を見ながら考えました。
 
映画のところどころに登場する40歳のアレックスさんの表情が暗いのが気になりますが、彼もいつの日か、自分自身の道を見つけて欲しいと願っています。
 
現在、日本でこの映画が公開中です。それにあわせて、2人の作品展も開催中です。アメリカではペーパーヴューで見ることができます。
 
 

 
 
 



 
 

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